シカゴの看板
シカゴは看板に関しては、わりとお行儀のいい街です。少なくとも見た目にはそう見えます。条例上も看板規制は比較的厳しく、無秩序に何でも掲げられる空気ではありません。シカゴ市の公開資料でも、看板の設置や変更には許可や細かな条件が関わることが確認できます。

仕事柄、車で街を回ることが多いのですが、そんな中で妙に印象に残る看板に出会うことがあります。ある店では、日本のファミリーレストランで見覚えのあるようなキャラクターが堂々と使われていました。どう見ても借り物ですが、店主に聞くと、ネットで見つけて気に入ったから使っているとのことでした。著作権というものを知らないのではなく、たぶん知ったうえで気にしていないのだと思います。潔くてあっぱれです。シカゴ南部は治安面の不安がある地域も多く、日本人が想像するような気軽なコンビニが並ぶ雰囲気ではありません。その代わり、小ぶりな食料品店やガソリンスタンド併設の店が目につきます。そうした店の多くはアラブ系のオーナーが営んでいる印象があります。街の看板を見ていると、ルールで整えられた都市の表情と、現場のしたたかな商売感覚が同居しているのがよく分かります。

別の意味で忘れがたいのが、フライドチキン店の看板です。シカゴでは Harold’s Chicken はよく知られた存在ですが、その意匠には、斧を手に鶏を追い回すような絵柄が使われております。なかなか思い切りのよい発想です。鶏にしてみれば災難ですが、店としては正直です。何を売っているのか一目で分かる以上、広告としては大変優秀と言えるのではないでしょうか。

シカゴは全体として看板は控えめですが、チャイナタウンだけは治外法権です。あそこだけは規制の中で大人しくしているというより、規制の存在を商売の勢いで押し返しているようにも見えます。街並みそのものに遠慮がありません。活気という言葉でまとめることもできますが、もう少し率直に言えば、売る気の圧力が強いのです。中華系商人の力強さは尊敬に値します。

そして、厳しい規制の街で、どう見ても自己主張が最も激しいのがトランプホテルです。あの巨大な TRUMP の文字は、建物の一部というより、自分の名前そのものを都市景観に押しつけたような迫力があります。実際、このサインは設置当時から景観論争の的になってきたようです。さすが大統領と言うべきでしょうか。名前を建物より大きく見せたい人間の本能と言うべきか私には分かりません。ただ一つ言えるのは、シカゴの看板はおとなしいようでいて、実は看板こそが街の欲望にいちばん正直だということです。