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シカゴ支社コラム 2026/11/02

シカゴの現場へ。ベテラン大工・角田が見た「アメリカの家づくり」

インタビューに答える角田大工

大工歴およそ33年。プリンシパルホームの創業当時より家づくりを現場で支えてきた角田大工が、アメリカ・シカゴに渡りました。目的は、プリンシパルホーム シカゴ支社が建てた住宅と、進行中の現場での建て方の見学です。

予定どおりに進まない工程、33年前を思い出すような道具、言葉も文化も異なる、多様なバックグラウンドを持つ現地の職人たち。その中で角田さんは何を見て、何を持ち帰ったのか。帰国したばかりの本人に、現場の話から文化の違い、これからの展望までじっくり聞きました。

「数秒で『行きます』と答えました」

――シカゴ行きの話が来たとき、どう思いましたか。

社長に「シカゴ、行けませんか」と言われて、もう数秒で「お願いします」と答えてました。何も考えずに(笑)。家に帰って母親に話したら、「誰でも誘われるわけじゃないんだから、行ってきた方がいい」って。信頼されて来た話だろう、と背中を押してくれました。

正直、平坦な毎日だったんです。でもたまたま誘われて、自分の人生を見つめ直すきっかけになりました。こういう話が来るってことは、まだやれるんだろうなと。

――どんな日程だったんですか。

到着して数日は時差ぼけを整えながら、シカゴ市内を見たり、道具を見て回ったりしました。その後は、支社が手がけた完成物件と、建築中の現場見学です。

プリンシパルホーム シカゴ支社が手がけた完成物件の外観

シカゴ完成物件のリビング

シカゴ完成物件

日本の30年前の道具? 足場も電気もない現場の合理性

――現場に入って、まず何に驚きましたか。

一番は道具です。日本の20年、30年前の道具なんですよ。日本だとICチップやコンピューターの入った道具が当たり前ですけど、向こうは一切ない。ノコギリも日本は効率よく小さくなっているのに、向こうは大きいまま。

たとえばボード張りも、日本なら丸ノコで切りますが、向こうはカッターで切るんです。僕が弟子の頃、親方に教わったやり方です。今の日本の若い大工さんはほとんどやっていないので、ある程度年配の人じゃないと対応できないと思います。

――建て方そのものも違うんですか。

全然違います。まず、足場というものがない。基礎を作ったら、床の上で壁を組んで起こし、2階の床を張ってまた壁を起こす。屋根までその状態で終わらせてしまうんです。

外壁を張るときに初めて、ポールを立てて、足で踏んで上げるジャッキのようなものを付けて、そこに長い板を渡す。下から外壁材を張っていって、終わったらすぐ撤去。物が盗まれやすいから、というのもあるようです。

現場には電気も水道もありません。全部ガソリンの発電機です。

――実際にはどんな作業を見学されましたか。

主に外壁の施工と内装の床張りです。外壁はラップサイディングという、薄くて長い材を重ねていく鎧張り。日本ではあまり見かけませんが、知識があったので特に作業の違いを見ることができました。

向こうの職人は朝来て、「今日何やる?」という感じでその日その日で段取りを組み直していて、日本のスケジュールの立て方と違うのが印象的でした。

――現場の状況はどうでしたか。

向こうの現場は必要な長さのサイディングを切ったら端材は全部捨てるようで、現場のあちこちに残されている状態でした。僕が見本で何本かサイディングを切ったのですが、全体を大まかに計算した上で切ったので端材の無駄がほとんど出ませんでした。シカゴの支社長は「資材に無駄を出さずにできることが実証できた。作業を徹底すれば今後コストを抑えることが出来る。」と自信を持っていただけたようです。

また床も僕が見本で張ったのですが、すごく綺麗だったらしくて。みんな見に来て「ビューティフル!」「ベリーグッド!」と言ってくれました。最初はお世辞だと思っていたんですが、現地のパートナー企業の社長でもあるデイビッドさんは「日本の大工はすごい」と思ってくれたようです。社長から言われていた「日本の品質の高さを伝えてきてほしい」という依頼は、本格的な施工は出来なくても実演を通じて少しは果たせたかなと思います。

「価値が上がれば、値段が上がる」国

――働き方の違いで、印象に残ったことは。

アメリカは、価値が高ければ高いほど値段が上がる国です。設備をやっているメキシコ系の家族チームでは、24歳の息子さんがリーダーで、一番給料が高い。理由は英語ができるからです。上と話ができる、それだけで評価が上がる。覚えれば覚えるほど単価が上がっていくんです。

日本の大工は、一棟ごと決まった金額の中で早く仕上げて稼ぐのが基本です。技術を磨いても、オプションがない限り一棟ごとの単価が上がることはほとんどありません。必然的に技術=スピードになります。家づくりには、基礎工事から最後の仕上げ・清掃まで、20種類ほどの専門職人がチームで携わりますが、その中でも覚えることが沢山あり家づくりに最も関わる大工が一番修行期間が長くなります。報酬の形態が違うので一概には言えませんが、日本の大工はアメリカのような『価値が直接単価に反映される仕組み』とはまた異なる難しさがあると感じました。

――言葉の壁はどうでしたか。

英語もスペイン語も分からないまま行きましたが、英語は意外とシンプルです。イエスかノーかはっきりしていて、単語だけでも通じる。カバンもゴミ袋も全部「バッグ」、飲み物は全部「ドリンク」。だから覚えることは少ないんです。

逆に、日本人らしく少し曖昧に返事をしたら「で、来るの?来ないの?」と聞き返されました。「もちろん行くよ、何時に」でいい。余計な言い回しはいらないんだなと。

現場ではChatGPTが本当に役に立ちました。翻訳を介して話したり、わからないことをその場で聞いたり。今も日本の現場で使っています。

――現地の人たちとは、どんな関係になりましたか。

アメリカって年上も年下もないんですよ。僕は52歳で、まわりはほとんど年下。みんな対等に話しかけてくるので、自分まで若返った気分でした。スペイン語は「オラ」「グラシアス」「アミーゴ」くらい。それでも現場のホットプレートでタコスを分けてくれて。

帰る時は「もうすぐ帰っちゃうね、寂しいよ」と言われて。最後はハグをして、涙目になっている人もいた。「来年はいつ来るんだ」って。いい国だなと思いました。

シカゴの現場の職人たちと角田大工

日本の大工だから通用する、ではない

――日本の職人が行けば、そのまま通用するものですか。

そこは違うと思いました。日本は工場で作った部材を取り付けますが、アメリカは現場で曲げて自分で作るんです。その道具は普段日本で使うものと異なります。現地の職人が普通に使えるものも、慣れないと難しいかもしれません。

大工はもともと細工も内装も、いろんなことをやってきています。ただ、今の日本はマニュアル化や工場生産が進んで、現場で何かを作る機会は減っています。現場で作る知識があるのは、おそらく40代後半以上の世代です。そこに言葉の壁もある。「日本の大工は優秀だから、行けばできる」という話ではないと感じました。

――角田さん自身は、すぐに馴染めたようですね。

一緒にいた人たちに「角田さんはすごい対応力だ」と言われました。海外ではストレスで崩れてしまう人もいるそうですが、僕は全然平気でした。街を歩いていても、何も考えず普通で。

不思議なもので、日本でいろんな人としゃべってきたことが、向こうで全部つながったんです。そのときはこれに意味があるのかなと思っていた知識が、現地の職人と対等に話すために役立った。あのとき話していたのは、シカゴに行くためだったんだな、と逆に思ったくらいです。

――工期の見積もりでも、日本との違いを感じたそうですね。

僕が「6日かかる」と思った作業を、現地の職人は「4日で終わる」と言うんです。早いと言わないと仕事をもらえないから。僕は正確な日数を言うべきだと思っていますが、彼らには彼らの生活がかかっている。仕事を取ることへの真剣さは、日本とは比べ物にならないと感じました。

5年後、10年後につながる経験

――今回のシカゴ行きは、会社にとってどんな意味があったと思いますか。

今回は見学でしたので、すぐに結果を残すというより、次回や5年後、10年後につながるものが分かったのかなと。現場では確認のルールづくりも始まりました。次に誰かが行くなら、「こういうことがあるから、こうした方がいいよ」と具体的に伝えられます。それは会社にとっても良かったと思います。

――若い世代に伝えたいことは。

若いうちに技術を身につけることは、日本で仕事をする上でも大きなメリットになります。日本は棟数をこなせば稼ぎにつながるため、体力がある若いうちなら、スピードを武器に数をこなせるからです。またスケジュールを立てやすいこともメリットです。

もしアメリカを目指す方がいれば、まだ型にはまりすぎていない、若い大工さんにこそ大きな可能性があると思います。先入観なしで向こうの技術や語学を早くから順応して覚えて自分の価値を上げ、覚えれば覚えるほどにそれがそのまま返ってくる世界がある。ちょっとしたアメリカンドリームですよね。

プリンシパルホームには20代の若い大工もいます。日本で基礎を身につけて、アメリカでやってみるのも面白いと思います。

シカゴ支社の方とも、「シカゴはシカゴ用の大工さんを育てたら面白い」という話をしました。ボード張りができるようになれば給料が上がる、という段階をつくっていく。日本では弟子にそこまでの給料は出せませんから、向こうならではの育て方ができると思います。

――和の住まいにも可能性があるそうですね。

アジア系の方が多いエリアでは、和風の家が好まれるそうです。でもアメリカには和室をつくれる人がいない。道具も材料もない。だからこそ価値がある。「日本人の大工がつくる家」というだけで売れるのでは、という話も出ています。僕は、声がかかればいつでも、と伝えています。

――帰国後、英語の勉強を始めたとか。

52歳からですよ(笑)。AIの英語アプリで、毎朝現場に早く着いたら車の中で練習しています。目標は、向こうで友達になったデイブと電話で話すこと。「何のために話したいか」がはっきりしていると続けやすいんです。好きな海外アーティストのインタビューも、少しずつ分かるようになってきました。

「英語で大工歴30年以上の経験を論文にすれば、シカゴ大学にも入れるよ」と言われたこともあります。経験そのものが評価される。そこがアメリカのいいところで、やりがいがありますよね。

笑顔で語る角田大工

プロフィール

角田 大工

株式会社プリンシパルホーム 大工。大工歴およそ33年。弟子時代に親方から叩き込まれた手仕事と、人との距離を一瞬で縮める人柄が持ち味。

「人がいいと言うものより、自分の目で評価したい」が信条。